塾のeラーニング導入は、教材を選ぶ前に「何のために、授業のどこで使うか」を決め、端末と回線、講師の運用、料金、保護者への説明を順に整えてから、少人数で始めるのが基本です。教材の契約から始めてしまうと、生徒が使わない、講師の手間が増えた、保護者から質問が来て答えられない、といった問題が後から出てきます。
この記事では、塾がeラーニングを導入するときの流れを10のステップに分け、1ステップごとにやることと判断の目安を説明します。あわせて、生徒への料金の決め方と、導入でよくある失敗も整理します。
塾にeラーニングを導入する前に決めること
導入の手順に入る前に、目的と使い方の型を決めておきます。この2つが決まっていないと、教材の比較も料金の設計も進められません。
導入の目的を1つに絞る
塾がeラーニングを入れる目的は、主に次の3つです。全部を同時に狙うと、評価の基準がぼやけます。一番の目的を1つ決めてください。
- 講師の負担を減らす:丸つけや解説を教材に任せ、講師は質問対応と声かけに時間を使う
- 家庭学習を増やす:塾のない日にも演習する習慣をつくる
- 新しいコースをつくる:部活で通えない生徒や遠方の生徒向けに、家庭学習のコースを提供する
目的によって、成功したかどうかを測る数字が変わります。講師の負担なら「丸つけにかかる時間」、家庭学習なら「塾のない日に学習した生徒の割合」というように、導入前に測る数字を決めておきます。
使い方の3つの型
eラーニングの使い方は、教室で使うか、家庭で使うか、その両方かで3つに分かれます。
| 型 | 使う場所 | 向いている目的 | 塾が用意するもの |
|---|---|---|---|
| 教室型 | 授業中・自習室 | 講師の負担を減らす | 端末、教室のWi-Fi |
| 家庭型 | 生徒の自宅 | 家庭学習を増やす、新コース | 生徒への案内、問い合わせ窓口 |
| 組み合わせ型 | 教室と自宅の両方 | 授業と宿題をつなげる | 端末、Wi-Fi、案内、運用ルール |
小規模塾で最初に始めやすいのは家庭型です。教室に端末を並べる費用と場所がかからず、宿題の一部を置き換えるところから始められます。
導入の全体の流れ
導入は、準備・運用の設計・開始と見直しの3段階、10ステップで進めます。準備から全体への展開まで、目安は2〜3か月です。

| 段階 | ステップ | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 準備 | 1 目的と対象を決める/2 使う場面と時間を決める/3 教材を選んで試す/4 端末と回線を整える | 3〜6週間 |
| 運用の設計 | 5 講師の運用ルール/6 料金の設計/7 規約と個人情報/8 保護者への説明 | 2〜4週間 |
| 開始と見直し | 9 少人数で始める/10 全体に広げて月1回見直す | 1か月〜 |
新年度や講習の始まりに合わせると、保護者への案内と料金の切り替えを一度に済ませられます。逆算して、導入したい月の3か月前には準備を始めるのが目安です。
準備の4ステップ
準備の段階では、目的と使い方を具体的にし、教材と環境を決めます。ここでの決め方が、後の運用と料金の設計を左右します。
ステップ1 目的と対象の生徒を決める
一番の目的を1つ決め、対象の学年と教科を絞ります。たとえば「中2・中3の数学で、塾のない日の演習を増やす」のように1文で書きます。最初から全学年・全教科に広げると、教材費も講師の手間も一度に増えます。
ステップ2 使う場面と時間を決める
授業のどこで使うかを決めます。授業の最初の10分で前回の復習に使う、宿題の半分をeラーニングに置き換える、定期テスト前の2週間だけ演習量を増やす、などです。1回の学習時間は10〜15分を目安にすると、生徒が続けやすくなります。
ステップ3 教材を選んで試す
ステップ1と2に合う教材を2〜3社に絞り、資料請求と体験版で比べます。対象の学年・教科、生徒の端末で動くか、講師の確認の手間、料金のかかり方、解約時のデータの扱いを同じ順番で確認します。自塾の名前で教材を出したい場合は、OEMの形で提供しているサービスも候補になります。詳しくは「塾向け教材のOEMとは?」をご覧ください。
ステップ4 端末と回線を整える
教室で使うなら、端末の台数と教室のWi-Fiを確認します。台数は「同じ時間帯に使う生徒の最大数」で決め、充電と保管の場所も用意します。Wi-Fiは、生徒が同時に使う台数で実際に動画や問題を開き、止まらないかを試しておきます。
家庭で使うなら、生徒のスマートフォンやパソコンで動くか、専用アプリのインストールが要るかを確認します。動画が中心の教材は通信量が多くなるため、家庭のWi-Fiで使うよう案内に書いておきます。学校から配布された端末は、学校のルールで塾の教材を入れられないことがあります。
運用を設計する4ステップ
運用の設計では、講師の動き方、料金、規約、保護者への説明を決めます。教材を入れても、この部分が決まっていないと生徒は使い続けません。
ステップ5 講師の運用ルールを決める
誰が、いつ、何を確認するかを決めます。最低限、次の3つは文書にしておきます。
- 課題の出し方:どの単元を、いつまでに、どれだけ出すか
- 確認のタイミング:授業の前に進み具合を見る、週1回まとめて見る、など
- 声かけの基準:3日以上開いていない生徒には連絡する、正答率が低い単元は授業で扱う、など
講師が複数いる塾では、講師ごとの使い方のばらつきが一番の問題になります。ルールを1枚の紙にまとめ、講師会議で共有します。
ステップ6 料金を設計する
eラーニングを月謝に含めるか、オプションとして別料金にするかを決めます。教材の費用が月額固定か生徒1人あたりかによって、向いている設計が変わります。具体的な型は、後の「料金設計の3つの型」で説明します。
ステップ7 規約と個人情報の扱いを整える
教材に生徒の氏名などを登録する場合、塾は生徒の個人情報を外部のサービスに預けることになります。個人情報保護法では、個人データの取扱いを外部に委託するとき、委託先を適切に選び、必要な監督を行うことが求められています。教材の提供元が個人情報をどう管理しているかを確認し、入塾時の書類や規約にも、学習サービスを利用することを書き加えておきます。
出典:個人情報保護委員会「はじめての個人情報保護法~シンプルレッスン~」
ステップ8 保護者に説明する
保護者には、次の3点を案内文で伝え、面談でも補足します。
- 何のための教材か(目的)
- 家でいつ、どれくらい使うか(使い方と時間)
- 塾がどう確認し、どう伝えるか(確認の方法)
あわせて、ログインできないときの連絡先と、スマートフォンを使う時間についての家庭のルールに配慮していることも書いておくと、問い合わせが減ります。
開始と見直しの2ステップ
開始の段階では、少人数で試してから全体に広げます。始めた後の見直しまでを導入の手順に含めておくと、定着しやすくなります。
ステップ9 少人数で始める
学年や得意・不得意の違う生徒5〜10人で、2〜4週間試します。記録するのは、生徒が週に何回使ったか、講師の確認に週何分かかったか、生徒と保護者からどんな質問が来たか、の3つです。問題が出たら、ステップ5〜8のルールを直してから広げます。
ステップ10 全体に広げて月1回見直す
対象の生徒全体に広げたら、月に1回、ステップ1で決めた数字を確認します。使っていない生徒への声かけ、課題の量の調整、保護者面談での報告の3つを毎月の作業に組み込みます。3か月たっても目的の数字が動かない場合は、使う場面か教材を見直します。
料金設計の3つの型
生徒への料金は、教材の費用の単位と、自塾が教材をどう位置づけるかで決めます。小規模塾で使われる主な型は次の3つです。
| 型 | 内容 | 向いている場合 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 月謝に含める | 全員が使う前提で月謝に含める | 教材費が月額固定、または全員に使わせたい | 値上げに見えないよう、明細に教材名を書く |
| オプション料金 | 希望者だけ月額で追加 | 教材費が生徒1人あたり | 使う生徒が少ないと効果が見えにくい |
| 講習とセット | 季節講習や定期テスト対策に組み込む | 期間を区切って試したい | 講習後に続ける生徒の料金を決めておく |
月謝に含める型
全員が使う前提で、月謝の中に含めます。教材の費用が月額固定なら、生徒が増えるほど1人あたりの負担が下がります。保護者に価値が伝わるよう、月謝の明細や案内に教材の名前と使い方を書いておきます。
オプション料金の型
希望する生徒だけが月額で追加する形です。教材の費用が生徒1人あたりでかかる場合に、収支を合わせやすくなります。使う生徒が限られるので、講師の運用ルールは対象の生徒向けに絞って作ります。
講習とセットにする型
冬期講習や定期テスト対策の期間だけ使う形です。保護者も生徒も試しやすく、講習後に続けたい生徒をオプション料金に移す流れが作れます。
料金を変えるときに注意したいのが、特定商取引法です。学習塾は、期間が2か月を超え、入学金・受講料・教材費などの合計が5万円を超える契約が「特定継続的役務提供」に当たり、書面の交付やクーリング・オフ、中途解約のルールが適用されます。教材の料金を追加したことで合計額が変わる場合は、契約書面の記載も見直してください。
出典:消費者庁「特定商取引法ガイド 特定継続的役務提供」。具体的な扱いは、最新の公式情報や専門家にご確認ください。
よくある失敗と避け方
eラーニングの導入でよくある失敗は、ほとんどが「始める前に決めておくこと」を飛ばしたことから起きます。
| よくある失敗 | 起きる理由 | 避け方 |
|---|---|---|
| 最初の1か月で使われなくなった | 使う場面と時間を決めず、自由に任せた | 宿題の一部にするなど、使う場面を固定する(ステップ2) |
| 教室のWi-Fiが止まった | 同時に使う台数で試していなかった | 実際の台数で動画や問題を開いて確かめる(ステップ4) |
| 講師によって使い方がばらばら | 運用ルールを文書にしなかった | 課題・確認・声かけのルールを1枚にまとめる(ステップ5) |
| 保護者からの問い合わせが急に増えた | 目的と使い方の説明が足りなかった | 案内文で3点を伝え、連絡先を明記する(ステップ8) |
| 費用が想定より重くなった | 生徒数が増えたときの費用を計算していなかった | 今と1年後の生徒数で費用を計算する(ステップ6) |
LINEで使える中学数学の演習教材
マナモンは、株式会社THREE D PLUSが運営する、LINEで使う中学生の学習アプリです。生徒が持っているスマートフォンのLINEで使うので、ステップ4の端末の準備が要りません。
- LINEで友だち追加するだけで使えるので、アプリのインストールや端末の配布が要りません
- 対象は中学数学の中1〜中3の全範囲です
- 同じ単元でも数字が毎回変わる問題で、宿題の演習量を増やせます
- 途中式を飛ばさない解説を1ステップずつ表示します
- 現役の塾講師が作問しています
生徒一人ひとりが自分のLINEで友だち追加して使う形なので、塾で取り入れる場合は、宿題や自習の教材の一つとして生徒に案内する使い方になります。
よくある質問
eラーニングの導入にはどれくらいの期間がかかりますか
目的を決めてから全体に広げるまで、2〜3か月が目安です。教材の契約自体はすぐにできても、講師の運用ルールと保護者への説明、少人数での試行に時間を取ったほうが定着します。
教室に端末を用意しないと始められませんか
家庭で使う型なら、生徒のスマートフォンやパソコンで動く教材を選べば、塾が端末を用意しなくても始められます。教室で使う場合は、同じ時間帯に使う生徒の最大数ぶんの端末が必要です。
スマートフォンを持っていない生徒はどうすればいいですか
家庭のパソコンやタブレットで使えるかを確認し、使えない場合は教室や自習室で使える時間を用意します。全員が同じ条件で使えるようにしておくと、保護者からの不満が出にくくなります。
eラーニングの料金は月謝に含めるべきですか
全員に使わせたいなら月謝に含める型、希望者だけならオプション料金の型が向いています。迷う場合は、講習とセットにして試し、続けたい生徒をオプションに移す方法もあります。
生徒が使わなくなったらどうすればいいですか
使う場面と量を決め直します。宿題の一部にする、授業の最初の10分で使う、など「使わないと困る場面」に組み込むのが効果的です。3日以上使っていない生徒には講師から声をかけるルールも有効です。
導入後に教材を変えることはできますか
できますが、学習履歴が引き継げないことがあります。契約前に、解約時のデータの扱いと書き出しの可否を確認しておいてください。
マナモンについて
マナモンは、株式会社THREE D PLUSが運営する、LINEで使う中学生の学習アプリです。生徒が自分のスマートフォンのLINEから、中1〜中3の数学の問題を単元ごとに解いて自習できます。問題の数字は毎回変わり、答えと解説もその場で確かめられます。
塾・教室向けの導入プランはありません。塾で使う場合も、生徒一人ひとりが自分のLINEで友だち追加して使う形です。

