塾のオリジナル教材を用意する方法は、自塾で一から作る、塾用教材を採用して組み合わせる、外部のデジタル教材を自塾の教材として使う、の3つです。どれが正解ということはなく、塾の規模、講師の人数、何で差別化したいかによって選び方が変わります。
この記事では、3つの方法を作成時間・費用・品質管理・差別化・更新の手間の5つの観点で比べたうえで、自作する場合の手順を9つのステップに分けて説明します。あわせて、塾で教材を作るときに見落としやすい著作権の注意点と、誤りを出さないためのチェック体制もまとめます。

塾のオリジナル教材とは
塾のオリジナル教材とは、その塾の生徒と授業に合わせて用意した教材のことです。一から自作したものだけでなく、塾用教材を組み合わせて自塾のカリキュラムにしたものや、外部のサービスを自塾の名前で提供するものも含めて考えると、選択肢が広がります。
オリジナル教材の範囲
オリジナル教材と呼ばれるものには、次のような幅があります。
- 授業で配る1枚のプリントや小テスト
- 単元ごとにまとめた演習冊子
- 定期テスト前の対策プリント集
- 授業の解説動画や、家庭学習用のデジタル教材
- 自塾のカリキュラムに沿って構成したテキスト一式
最初から冊子を作る必要はありません。多くの塾は、よく使うプリントを少しずつ増やし、たまったものを冊子やデジタル教材にまとめていきます。
市販教材と塾用教材の違い
教材には、書店で買える市販教材と、塾向けに販売される塾用教材(塾専用教材)があります。塾用教材は一般の書店では扱われず、教材会社や代理店を通じて塾が購入するのが一般的です。
| 項目 | 市販教材 | 塾用教材 |
|---|---|---|
| 買える場所 | 書店・通販 | 教材会社・代理店を通じて塾が購入 |
| 想定する使い方 | 生徒が一人で読んで解く | 講師が説明し、生徒が演習する |
| 解説 | 詳しい | 少なめで、問題数が多い |
| レベル分け | 1冊で幅広く | 基礎・標準・発展などに細かく分かれる |
| 解答 | 冊子についている | 別冊で、講師用の指導書がつくこともある |
塾用教材は解説を講師が補う前提で作られているため、演習量が多く、レベル別にそろえやすいのが特徴です。
外部のデジタル教材を自塾の教材にする方法
3つめの方法が、外部の会社が作ったデジタル教材や学習システムを、自塾の名前で生徒に提供する方法です。OEMと呼ばれる形で、教材の開発や更新を提供元に任せながら、生徒からは自塾の教材として見えるようにできます。詳しくは「塾向け教材のOEMとは?4つの型と費用のかかり方」で説明しています。
3つの方法を5つの観点で比べる
3つの方法は、作成にかかる時間と、差別化のしやすさが反比例する関係にあります。下の表で、自塾が何を優先したいかに近い列を探してください。
| 観点 | 自作 | 塾用教材の採用 | 外部サービス(OEMなど) |
|---|---|---|---|
| 作成時間 | 長い(問題・解答・解説・検算まで自塾で行う) | 短い(選んで並べるだけ) | 短い(設定と生徒への案内) |
| 費用 | 主に人件費。印刷費もかかる | 生徒数ぶんの教材費 | 月額や生徒数に応じた利用料 |
| 品質管理 | 自塾で誤りを見つける体制が要る | 教材会社が担う | 提供元が担う |
| 差別化 | 最も高い | 低い(同じ教材を使う塾が多い) | 中くらい(使い方や追加教材で差が出る) |
| 更新の手間 | 教科書の改訂ごとに自塾で直す | 新年度版に切り替える | 提供元が更新する |
表のとおり、自作は差別化できる代わりに、作成と品質管理と更新をすべて自塾で引き受けることになります。講師が少ない塾ほど、全部を自作にするのは現実的ではありません。
自作が向く塾・向かない塾
自作が向くのは、次のような塾です。
- 特定の高校や中学の入試・定期テストに強く、その傾向に合わせた問題が必要な塾
- 塾長や講師に教材づくりの経験があり、作成と見直しの時間を確保できる塾
- 既存の教材では合わない、独自の指導法やカリキュラムを持っている塾
反対に、講師が1〜2人で授業と運営に手一杯の塾、対象の学年や教科が幅広い塾では、全部を自作すると授業の準備時間を圧迫します。この場合は、本体は塾用教材や外部サービスに任せ、自塾の強みが出る部分だけを自作する組み合わせが向いています。
自作教材の作り方(9ステップ)
自作教材は、問題を作る前の設計と、作った後の見直しに時間をかけるほど品質が上がります。ここでは、プリント集や単元別の演習冊子を作る場合の手順を説明します。

ステップ1 対象の生徒と目的を決める
「中2の定期テストで平均点に届かない生徒が、計算問題で点を取る」のように、誰が何のために使うかを1文で決めます。対象が広すぎると、難易度がぶれて誰にも合わない教材になります。
ステップ2 学習指導要領と地域の教科書を確かめる
生徒が学校で使っている教科書の単元名と順番を確認します。同じ学年でも教科書会社によって単元の順番が違うため、地域の中学校で採択されている教科書に合わせると、学校の授業と並行して使いやすくなります。
ステップ3 単元を分けて構成を作る
単元を、生徒が1回で取り組める大きさに分けます。1回分の目安は、授業内なら15〜20分、宿題なら10〜15分です。構成表を作り、単元名・ねらい・問題数・難易度を一覧にしておくと、作業を分担しやすくなります。
ステップ4 例題・基本問題・応用問題の割合を決める
1回分の中で、例題、基本問題、応用問題をどの割合で入れるかを決めます。定期テスト対策なら基本問題を多めに、入試対策なら応用問題を多めにします。割合を先に決めておくと、作る人が変わっても難易度がそろいます。
ステップ5 問題を一から作る
問題は自分で作ります。市販の問題集や入試問題を写すと、著作権の問題になります(後で詳しく説明します)。数学なら数値を変える、英語なら例文を自分で作る、理科・社会なら教科書の内容から問い方を考える、というように、元の問題の形を参考にしながら中身は自作にします。
ステップ6 解答と解説を作る
解答だけでなく、途中の考え方を書いた解説をつけます。塾用教材は解説が少なめなので、家庭学習で使う自作教材こそ、生徒が一人で読んで分かる解説が差別化になります。つまずきやすい点には「なぜそうするのか」を1行添えます。
ステップ7 別の人が解いて誤りを確かめる
作った人とは別の講師が、解答を見ずに全問を解きます。作った本人は答えを知っているため、問題文の不足や数値の誤りに気づきにくいからです。このステップを省くと、授業中に誤りが見つかり、生徒と保護者の信用を失います。
ステップ8 レイアウトを整えて印刷・配信する
文字の大きさ、余白、解答欄の広さを整えます。紙で配るなら、少部数でもオンデマンド印刷を使えば冊子にできます。デジタルで配るなら、PDFにして配信するか、学習システムに載せます。塾名とロゴを入れておくと、保護者の目にも自塾の教材として伝わります。
ステップ9 授業で使い、結果を見て直す
実際に使い、問題ごとの正答率や、生徒からの質問が多かった箇所を記録します。正答率が極端に低い問題は、難しすぎるか、問題文が分かりにくい可能性があります。年に1回はまとめて見直し、教科書の改訂にも合わせて直します。
著作権で必ず守ること
塾で教材を作るときは、学校向けの著作権のルールがそのまま使えない点に注意が必要です。営利で運営している塾は、学校と同じ扱いにはなりません。
著作権法35条は営利の塾には使えない
著作権法35条は、学校などの教育機関が授業のために著作物をコピーすることを、一定の条件で認めています。ただし対象は営利を目的としない教育機関で、営利目的で運営されている塾・予備校は対象外です。文化庁が示している運用指針でも、この点が明記されています。
市販の問題集や入試問題のコピー配布
市販の問題集のページをコピーして生徒に配ることは、権利者の許諾がなければできません。塾内での利用は、個人が自分で使うための私的使用にも当たりません。
入試問題にも著作権があり、問題文に使われている文章や図にも別の権利者がいることがあります。入試問題を教材に使いたい場合は、許諾を得て提供されている過去問のデータベースや教材を利用するのが安全です。判断に迷う場合は、専門家に相談してください。
参考:公益社団法人著作権情報センター「試験問題としての複製」
画像・フォント・AIで作った文章
教材に入れるイラストや写真は、商用で使えるものかを利用規約で確認します。フォントも、印刷物や配布物での利用が認められているかを確認が必要です。
生成AIで作った問題や解説は、作業時間を減らすのに役立ちますが、計算や事実の誤りがそのまま入ることがあります。AIで作ったものほど、ステップ7の「別の人が解く」を省かないようにしてください。
誤りを出さないためのチェック体制
教材の誤りは、1問でも見つかると教材全体の信用に関わります。作った人と確かめる人を分けることが基本で、問題が増えてきたら仕組みでも確かめるようにします。
確かめる観点を一覧にする
見直す人によって確かめる点がばらつかないよう、チェックの観点を一覧にしておきます。
| 観点 | 確かめること |
|---|---|
| 正しさ | 答えが合っているか。答えが1つに決まるか |
| 問題文 | 条件が足りているか。読み間違えやすい表現がないか |
| 範囲 | 学年で習っていない内容が混ざっていないか |
| 表記 | 単位、符号、かっこ、記号の書き方がそろっているか |
| 解説 | 途中の式が飛んでいないか。生徒が一人で読んで分かるか |
数値を変える問題は機械でも確かめる
同じ形で数値だけを変えた類題を大量に作る場合は、人の目だけでは全部を確かめきれません。答えが整数になるか、0や負の数が入ったときに式の書き方が崩れないか(「+−3」や「1x」のような表記になっていないか)を、プログラムや表計算で一括して確かめると、見落としを減らせます。
自作と既存の教材を組み合わせる
すべてを自作にするより、自塾の強みが出る部分に自作の時間を集中させるほうが、品質と差別化を両立しやすくなります。
| 使う場面 | 向いている教材 | 理由 |
|---|---|---|
| 授業の本体 | 塾用教材 | レベル別にそろっていて、演習量が多い |
| 定期テスト対策 | 自作プリント | 地域の中学校の出題傾向に合わせられる |
| 宿題・家庭学習 | 外部のデジタル教材 | 丸つけと解説を教材側に任せられる |
| 苦手単元のやり直し | 外部のデジタル教材 | 学年をさかのぼって演習できる |
| 入試直前の対策 | 自作+許諾済みの過去問教材 | 志望校に合わせて組み直せる |
この組み合わせなら、講師が作るのは定期テストと入試直前の教材が中心になり、作成と見直しの時間を確保しやすくなります。
既製のデジタル教材を組み合わせる
自作の教材とは別に、生徒が家で使える既製のデジタル教材を組み合わせる方法もあります。たとえばマナモンは、株式会社THREE D PLUSが運営する、LINEで使う中学生の学習アプリです。
- 中学数学の中1〜中3の全範囲を収録しています
- 同じ単元でも数字が毎回変わるので、類題を自作する手間がかかりません
- 途中式を飛ばさない解説を1ステップずつ表示するので、生徒が自分で答え合わせと解き直しをできます
- LINEで友だち追加するだけで使えるので、アプリのインストールや端末の配布が要りません
生徒一人ひとりが自分のLINEで使うアプリなので、塾で使う場合は、宿題や家庭学習の教材の一つとして生徒にすすめる形になります。
よくある質問
塾用教材は個人塾でも買えますか
買えます。教材会社や代理店に問い合わせると、個人塾でも取引できることがほとんどです。最低の注文数や、取引開始の条件があるかは会社によって違うので確認してください。
市販の問題集をコピーして生徒に配ってもいいですか
権利者の許諾がなければできません。営利で運営している塾は著作権法35条の対象外で、塾内での利用は私的使用にも当たりません。生徒に問題集を購入してもらうか、自作の問題を使ってください。
公立高校の入試問題を塾のプリントに載せてもいいですか
入試問題にも著作権があり、問題文の文章や図には別の権利者がいる場合もあります。許諾を得て提供されている過去問の教材やデータベースを使うのが安全です。
自作教材を1冊作るのに、どれくらいかかりますか
問題数、教科、解説の詳しさで大きく変わります。問題を作る時間に加えて、解答・解説の作成と、別の人が解いて確かめる時間が同じくらいかかると考えて計画すると、無理のない日程になります。
AIで作った問題をそのまま使っても大丈夫ですか
そのまま使うのはおすすめしません。計算や事実の誤りが入ることがあるため、必ず人が解いて確かめてください。問題の元になった文章が他人の著作物でないかも確認が必要です。
少ない部数でも冊子にできますか
できます。オンデマンド印刷なら、数十部の少部数でも冊子にできます。デジタルで配信すれば印刷費はかかりません。
マナモンについて
マナモンは、株式会社THREE D PLUSが運営する、LINEで使う中学生の学習アプリです。生徒が自分のスマートフォンのLINEから、中1〜中3の数学の問題を単元ごとに解いて自習できます。問題の数字は毎回変わり、答えと解説もその場で確かめられます。
塾・教室向けの導入プランはありません。塾で使う場合も、生徒一人ひとりが自分のLINEで友だち追加して使う形です。

